「病気や障害のある子も、そうでない子も、どんなこどもたちも楽しめるよう、さまざまな工夫を取り入れ、どんなこどももまるっと大歓迎!楽しむことをあきらめない!」そんな思いを込めて名付けた「まるっとこども縁日」。
2024年8月24日(土)に、2年目となる縁日を金沢港クルーズターミナルにて開催しました。運営には多くのサポーターの方にもお力添えをいただいています。今回は縁日に遊びにきてくれたライターさんに2024年度「まるっとこども縁日」の感想レポート記事を書いていただきました。
(以下レポート記事)
ありがたすぎる!冷房が効いた屋内縁日
もう「猛暑」なんて言葉じゃ足りない、「酷暑」がすっかり定着した2024年夏。真夏の屋外イベントは冗談抜きで命懸けで、町会や学校の皆さんが子供達のためにと一生懸命準備してくださる地域の縁日も、こどもたちは大はしゃぎだけれど、親たちはゲッソリ&バテバテだったりする。
そんな折に友人である「Try Angle」代表理事の須田さんから「Try Angleで今度縁日やるので、よかったら遊びに来てください〜」とメッセージをいただいた。一瞬「真夏の縁日…!(汗) 」と思ったけれど、よく見たら屋内開催(=冷房がある‥!)!!そして広々としていながらも囲まれているような安心感がある「金沢港クルーズターミナル」という会場も、スムーズな子連れ参加がイメージできた。
あえて「医療的ケア児」と打ち出さない
医療的ケア時の外出や旅行に尽力されているTry Angleさんの活動は、須田さん個人のSNSを介してなんとなく知ってはいるつもり。けれど、医療的ケア児の「ケア」についての専門的な知識は全くないに等しい私。
Try Angleさんが主催するお祭りなんだから、配慮すべき点がわかっていない人が混ざってると迷惑がかかるのでは…という気持ちを打ち明けると「むしろそういう方々にきていただきたいんです」と須田さん。「病気や障害の有無に関わらず、いろんな子どもたちに参加してもらいたくてこの縁日を開催しています。だからチラシにもそういった文言をあえて入れていないんですよ」とカラッとした笑顔で返してくれた。
「あつまれ いろんな こども」
「あつまれ いろんな こども」というコピーが目を引く楽しげなチラシには、確かに「医療的ケア児」といったワードは載っておらず、目を凝らすと「障がいのあるお子さんも楽しめる工夫を取り入れます」という一文がそっと添えてあるだけ。
なるほど、これなら一般的な縁日と分け隔てなく子どもたちも参加しにくるだろうし、この一文があることで、医療的ケア児の親御さんは安心して参加することができる。チラシのデザイン一つをとっても、Try Angleさんが目指す世界線への祈りみたいなものが垣間見れた。
子どもたちにチラシを見せて「行く?」と聞くと「行く!!」との即答。ということで、遠慮なくお邪魔させてもらうことにした。
オープンから大盛況!賑わっていても移動はスイスイ。
午後いちにうかがった当日。すごく賑わっている…!射的やヨーヨーすくいといった「だしもの」には列がついていて、なんなら「さめつり」はすでに完売御礼!!
「午前中はもっとすごかったんですよ〜」と声をかけてくれたのは、当日も会場で西走東奔していた須田さん。え!さらに混んでいたの!?やはり皆さん涼しい縁日を求めていたのかな〜。
たくさんの子供たちと親御さん。その中には車椅子に乗っていたり、医療器具をつけているお子さんも。賑わっているけれど、なんせ会場が広いので「人混み感」や「密集感」はなく、ベビーカーや車椅子の方もスイスイ移動できている動線。
チラシ同様、会場でも特に「医療的ケア児」といった文言や「福祉系/医療系イベント」といった雰囲気はない。それよりもクルーズターミナルらしい海をイメージした撮影スポットなど、マリンな印象。
「こんなお友だち、いないかな?」
早速受付で一枚100円のチケットを購入。そこで「こんなお友だちいないかな」と書かれた冊子を一緒にいただいた。開いてみると医療的ケア児をはじめ、病気や障害理解のための子ども向けに優しく書かれた内容のハンドブックだった。何か特別な説明があったわけではないけれど、キャッチコピーに引かれてなのか、小学生の長女は自ずとペラペラとめくっていた。子どもって「教えられる」のは嫌うけど、自分からならどんどんいくよね。
「早く早く!」と子どもらに急かされ、いざ出しものコーナーへ。色とりどりのスーパーボールすくいや、ヨーヨーつりを満喫。甘いものが欲しくなったのでカフェコーナーでメロンソーダのフロートをいただいた。
後から須田さんに教えていただいたところ、それぞれの出店者さんは地域の医療法人や社会福祉法人、NPO法人が多いそう。法被姿であったり、お祭り感に華を添えておられました。ちなみにメロンフロートを購入したカフェは、放課後等デイサービスの就労体験をかねているそう。
初めて見る「胃ろうパッド」
様々な出しものがある中で、可愛い雑貨類を販売しているブースも。お食事スタイなどに並んで、カラフルな、例えるなら“ミニミニ・スタイ”みたいなものを発見。「なんだろう?」と眺めていたら「胃ろうパッド」とある。
初めて聞く言葉だったのでその場でスマホ検索。そもそも「胃ろう」とは、口から食事のとれない方や、食べてもむせ込んで肺炎などを起こしやすい方に、直接胃に栄養を入れる栄養投与の方法とのこと。その外部機器と肌との間に挟んで使うものが「胃ろうパッド」らしい。
医療福祉業界ではきっと常識であろう「胃ろう」のことすら知らない私。でも、このお祭りで初めて知ることができた。お恥ずかしながらも立派な一歩とも言える。これはTry Angleさんがこのお祭りに期待していたことの一つではないだろうか。
このように、一見すれば「涼しくて広々とした空間での地域の縁日」でありながら、「医療的ケア児」という視点から見れば、イベントとしての工夫や気遣いがあることが浮かび上がってくる。
ちょっとした「心遣い」や「目線」があるだけで
例えば浴衣を着付けてもらえるスペース(石川バリアフリーツリーセンターさん)。こちらでは、浴衣が上下に分かれた二部式になっていた。これは車椅子や寝たきりの方、または高齢の方も楽に着れるよう開発された浴衣だそうで、うかがった時も車椅子に乗った子が、かき氷シロップのように鮮やかな浴衣を着付けてもらっていて、とても可愛いらしかった。
娘たちが参加していたスーパーボールすくいでも、大きな水槽の横に小さなタライが何気なくおいてあり、そこにも同じく色とりどりのスーパーボールが浮かんでいた。聞けばこのタライ、車椅子などに乗っていて、しゃがむことができないお子様でも楽しめるように用意されているもの。キラキラと反射する様子に、むしろ「こっちでやりたい」と言い出す娘たち。
特に長蛇の列がついていた大人気の射的コーナーでも、年齢によって立ち位置を前後して調整してあげたり、肢体不自由なお子さんには木の棒がついた銃で対応し、引くだけで発射できるようなっていたり。
「授乳・オムツ替え・ケアコーナー」と書かれたパーテーションで仕切られた空間も、裸足で上がれるキッズスペースも、医療的ケア児に限定されず、乳幼児を抱える親御さんにとってもありがたい空間。
楽しく、日常の地続きで
ゲームコーナーでは、視線入力リハビリツールを利用した射的ゲームが。「視力入力」とは手足や口を使わず、視線のみでパソコンやタブレット端末を操作できる方法だそうで、ゲーム感覚で子供達も体験できるツールは実にナイスアイディア。やっぱり「楽しく」は大事。
またゲームコーナーの横にはさりげなく福祉車両の車両展示が。最近実家の祖母が歩行が困難をともなうようになってきて、車椅子のまま乗り降りできるような車が気になっていたところ。医療的ケア児に限らず、「ケア」の課題は遅かれ早かれ誰にも訪れるもの。だからこそ、こんな風に日常にある機会でさりげなく福祉系の情報がキャッチアップできるのはありがたい。
「描く円(=想定する範囲)」をちょっと大きくする
どの工夫も何か特別な「設備」や「器具」が必要なわけではなく、本当にちょっとした「心遣い」と「気づき」があれば容易に取り入れることができるレベルのもの。このくらいの配慮があれば、医療的ケア児の子達も参加できるのだと言うのは大きな発見だったし、「意外とできそう」という印象。
医療的ケア児の子が参加しやすいイベントを想定し、ぐるっと描く丸(想定範囲)を広くすることで、ケア児以外のより多くの子供達も参加しやすくなる。
そもそも今回のキーになった会場選定だって、天候や気温によって体調が変化しやすい「医療的ケア児」への配慮が根底にありながらも、私たちにとってもめちゃめちゃありがたい環境。インクルーシブ&ノーマライゼーションの恩恵を身をもって体感できたような気がした。
「いろんな地域のお祭りがインクルーシブになったらそれが一番よくて、最終的にそうなることを目指しています。私たちがこうやって開催してみることで、『こうやるといいのか』とか『自分たちでもできそうかも』というノウハウや気づきのようなものを共有していけたら」と話すのはTry Angle代表理事・須田さん。
「現状では医療的ケア児と子ども達は学校からすでに分かれているので、同じ空間に居合わせるシーンが日常ではほとんどありません。なのでせめてイベントでというか、こういったお祭りを通して、私たちの生活圏内にそういう子ども達がいるということが、自然な形で広がるといいなと思っています」
ただ、隣合うだけで
帰り際、長女が「くつしたまいれ」なるユニークなネーミングの競技に夢中になっていた。「形も色も違うバラバラの靴下を、対を見つけて丸たもので玉入れする」というシンプルなルールなのだけれど、随分と長いことやっていたのをぼんやり眺めていた。靴下が宙を舞う光景には不思議な祝祭感がある。
娘達にお祭りの感想を聞くと、「楽しかったー」と答えただけ。多分「医療的ケア児」という言葉もまだ知らないし、来場者のお子さんとコミュニケーションをとる機会も今回は特になかった。
けれど「医療的ケア児」といったテーマを互いに見つめ合うのではなく、「お祭り」というどんな子どもも心踊るコンテンツのもとに集い、ただ隣り合っていること。
床面に散らばる、カラフルで統一感のない子供の靴下が、なんだか愛おしかった。
取材:2024年8月
柳田和佳奈:県内在住2児の母。会社員のかたわら、個人でライターや編集業もやってます。