Try Angleでは、医療的ケアのあるお子さんとご家族が、自由に旅を楽しめる社会を目指して、宿泊施設との協働を続けています。
2025年5月、アパートメントホテル「MIMARU」を運営する株式会社コスモスホテルマネジメントさんと連携し、京都の2施設で宿泊会を開催しました。チェックアウト後に実際に宿泊体験をしたご家族、ホテルスタッフ、そして福祉関係者が一堂に会する意見交換会も実施。
今回は、宿泊会と意見交換会を経て見えてきた「お互いの話に耳を傾けながら、それぞれできる範囲で対応していく姿勢の大切さ」についてお伝えします。
宿泊したご家族の声
今回の宿泊会には、京都にお住まいの医療的ケアのあるお子さんとそのご家族に参加いただきました。たんの吸引や酸素吸入など、日常的に医療的ケアが必要なお子さんとご家族にとって、旅行はまだまだハードルが高いのが現状です。
今回の宿泊会に参加してくださったのは、京都で医療的ケアが必要なお子さんと暮らす、吉田さん、杉田さんご一家。
杉田さん・吉田さんご一家には宿泊後に意見交換会に参加いただきました。
宿泊会に参加いただくご家族のコーディネートには、京都で重心型放課後等デイサービスや訪問看護ステーションを運営する、NPO法人こども未来さんにご協力をいただきました。
ご家族には「MIMARU京都 河原町五条」「MIMARU京都 新町三条」の2つの施設に宿泊していただきました。
意見交換会では、宿泊前のやりとりや、宿泊当日の工夫などを、MIMARUのスタッフの方、こども未来のスタッフの方とともに語り合いました。
まず、吉田さんからは、室内や共用スペースの広さ、キッチンや洗濯機の利便性などに対して高い評価がありました。日常的に使っている医療器具をホテルでもスムーズに扱える環境が整っていたことは、安心して滞在する上で非常に重要だったとのこと。
ホテル滞在中の様子の写真を交えながらお話しいただきました。
また、今回宿泊した河原町五条のホテルは、アクセシブルルームが1階にあることで、「エレベーターの広さを気にする必要がなく、移動がとても楽でした」と話してくれました。
一方で、近隣の駐車場事情については「スロープ車を使う場合、降車スペースが限られるので近隣のコインパーキングがどのような状態なのか詳しく知りたい」「事前に周辺の停車可能場所や荷物だけ預けられるなどの案内があると助かる」といった声がありました。
コインパーキングでも後に柵があったりすると載せ下ろしが困難なことも。今回はホテル近隣の地下駐車場の車いす専用スペースを利用しました。
杉田さんご一家からも、「館内は大きな車椅子でも無理なく移動できた」「コンセントの位置や数がちょうどよかった」などのポジティブな感想とともに、「浴槽が小さくて介助がしづらかった」「シャワーチェアーも用意されていたが、違うタイプの介護用シャワーチェアもあったら嬉しかった」といった要望も寄せられました。
今回の宿泊会についてフィードバックをする杉田さんご一家
一言でシャワーチェアと言っても、当事者家族と宿泊施設側で思い起こすものにギャップがあることも。意見交換会はこのようなお互いの認識のギャップを知る機会にもなっています。
「どう準備すればいい?」宿泊施設のチャレンジと工夫
今回の宿泊会では、事前にご家族あてにMIMARU全施設で導入されている「コミュニケーションシート」を送付。必要な貸し出し備品や対応のリクエストを聞き取りをしていただきました。
MIMARUさんでは、Try Angleが原案を提供し、各施設ごとにアレンジされた「コミュニケーションシート」を活用されています。
今回宿泊前の調整ややりとりの窓口をしてくださったコスモスホテルマネジメントの早川さんからは、「コミュニケーションシートをもとにリクエストされたものは準備したけれど、どこに置いておくとよいかなどわからないこともあった。もう少し積極的なヒアリングをして改善していきたいと思います」と率直な感想が共有されました。
コスモスホテルマネジメントの早川さん。医療的ケア児の受け入れに関する取り組みを社内コンペで提案し、東京・京都での宿泊会が実現しました。
また、「お願いされれば対応できることも多いが、どう切り出してもらうかが難しい」という課題も明らかになりました。
ご家族側からも、「私たちからのお願いはイレギュラーなことが多くて、なかなかお願いしにくい。ちょっと何かきっかけになるような言葉をホテルの方から言っていただけると、『じゃあこういうのはできますか?』と言い出しやすくなります」「でもコミュニケーションシート1枚があるだけでも、受け入れていただける気持ちはあるんだっていう安心感があったので、とても嬉しかった」との意見がありました。
宿泊前のコミュニケーションについてコメントする杉田さんご家族。
こうしたご家族の意見を受けて、早川さんからは、「ご家族の方からはなかなか言いだしづらいということがわかったので、私たちも言いやすい状況をいかに作っていくかを検討したいです」とコメントをいただきました。
「必要なものやリクエストは遠慮せずに積極的におっしゃっていただきたい。私たちも、準備をしてお迎えできますし、なにより当日皆さん気持ちよく過ごしていただける状況を作れるので、1番嬉しいなと思います」と早川さん。
コミュニケーションのもとになるシートや、声かけの言葉など、双方のコミュニケーションをスムーズにするための方法は、まだまだ工夫ができそうということがわかりました。
「制度の枠」を超えてどんな支援ができるか?
今回参加ご家族のコーディネーションに協力いただいたこども未来さんからは、「普段の支援はどうしても制度の枠に収まりがちだが、制度の枠を超えて私たちが関わるきっかけをいただいたと思います。ご家族の“したいこと”に応えることも大切だと実感しました」との声がありました。
意見交換会にはNPO法人こども未来・代表理事の岡本さん、又吉さん、新保さんにも参加いただきました。
宿泊体験をきっかけに、旅行や外出という“制度外”の願いに寄り添う支援の可能性に気づいた、と語ってくださいました。
求められる「まちぐるみ」のアクセシビリティ改善
旅は宿泊施設だけで完結しません。飲食店や周辺の交通環境、体験施設など、地域の様々な施設のアクセス環境も改善されてこそ、訪れやすい地域になっていきます。
コスモスホテルマネジメントさんでは、国内外向けのバリアフリー旅行ガイドを今年4月に発行。その制作過程で感じた難しさについて、経営企画室の明石さんから伺いました。
今年4月に発行されたMIMARU×地球の歩き方 国内外向けのバリアフリー旅行ガイド(提供:(株)コスモスホテルマネジメント)
「医療的ケアのあるお子さんを、どういう風に受け入れるか検討する中で、福祉タクシーを使われたいとか、緊急時の医療機関を知りたいとか、そういった情報をある程度お届けできたらいいなと思って調べました。各都道府県など行政が個別で情報出してたりするんですけど、いろんなサイトでご紹介されていたり、掲載されている内容がバラバラで統一の情報がなかったりして、なかなか情報収集が大変でした」と明石さん。
「宿だけではなくて周辺の街を楽しんだり、移動したり、そういったこともセットで安心できないとなかなか一歩は踏み出せないのかなと思います。観光業界全体で、面で広がっていくといいなと思います」と語ってくださいました。
今回の意見交換会でも、ご家族からは「近隣のホテルのスタッフしか知らないような情報や、テイクアウトができる飲食店情報があると助かる」「広めの通路があるお店の情報があると嬉しい」といった声も聞かれました。
「MIMARU京都 河原町五条」では近隣の飲食店の朝食弁当を紹介し、受け渡しするサービスも。このようなサービスも、注入などの医療的ケアのあるご家族にとっては客室内でゆっくり過ごす選択ができるので喜ばれるポイントの一つ。
このあと、吉田さんからは患者会の集まりで利用されたことのあるカフェの情報を共有いただきました。
医療的ケア児のご家族だからこそ知っている、アクセスしやすいお店の情報が観光業界の方にも伝わることで、接客時の提案の幅が広がっていく可能性を感じました。
また、今後は宿泊施設にとどまらず、まち全体でのアクセシビリティの改善や情報整備の必要性を改めて実感しました。
大切なのは“聞く姿勢”と“それぞれができることから”
今回の意見交換会を通じて改めて見えてきたのは、「これさえしておけばOK」という万能な対応は存在しないということ。
そして宿泊施設だけではなく、周辺の施設のアクセシビリティ情報も重要で、まちぐるみでの取り組みが求められる、ということです。
一朝一夕には進みませんが、それでも「どのようにしたら過ごしやすいのか」「普段おうちではどのように対応しているのか」などの旅行される方のニーズに耳を傾け、できる範囲で応えていこうとする姿勢こそが、ご家族にとって何よりの安心と信頼につながると感じました。
Try Angleでは、今後も地域の人々や事業者とともに医療的ケア児とご家族の旅への選択肢を広げていきます。
メディア掲載情報
今回の意見交換会の様子を京都新聞さんに取材いただきました。
◎京都市下京区のホテル、医療的ケア児と家族の宿泊イベント実施 当事者とホテル、福祉事業所が意見交換(京都新聞 2025/05/16)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1476788
また、コスモスホテルマネジメントさんのプレスリリースでもご紹介いただきましたので、ぜひご覧ください。
◎医療的ケア児とその家族が、安心して“旅行を楽しめる”社会へ ~対話から見えた旅行実態と、受け入れ環境の課題~ 医療的ケア児とその家族を対象とした試泊イベントと意見交換会を実施
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000097.000081858.html
アパートメントホテル「MIMARU」での医療的ケア児に向けた取り組みは以下にご紹介されています。
https://mimaruhotels.com/news/accessible-tourism
早川さん・明石さんの医療的ケア児の旅行受け入れへの思いが伝わる対談はこちらでご覧いただけます。
◎ひとりのスタッフの思いから、志を共にした外部パートナーの力を借りて、~医療的ケア児の旅行受け入れ~ を実現。みんなが安心して泊まれるホテルを目指す、MIMARUのSDGsストーリー。
https://prtimes.jp/story/detail/Ybjo2WTyM1B
Try Angleでは、医療的ケア児の宿泊受け入れを検討されている宿泊施設の方に向けて、受け入れに向けた個別相談と実践機会のコーディネート支援を提供しています。
本取り組みにご関心をお持ちの方は、以下の問い合わせフォームからご連絡ください。